2024.08.28
2024.09.12

矯正治療中の虫歯にご用心

 

 

皆さん、矯正治療に興味がありますか?矯正治療は自費診療になりますが、きれいな歯並びを手に入れることができることはもちろん、しっかりとかむことができるようになったり、しゃべりやすくなったり、歯にかかる負担を小さくすることができたりと非常にメリットも多い治療です。近年、治療技術の進歩に伴い、ワイヤーでの矯正治療以外にインビザライン®に代表されるマウスピース矯正も注目を集め、若い女性を中心に矯正治療をスタートする患者さまも多くいます。

しかし、矯正治療中には気を付けるべきことがたくさんあります。その中でも特に注意が必要になってくるのが、清掃不良が原因で生じる虫歯です。今回は矯正治療中に気を付けるべき虫歯についてどのようなことが大切になるかについて、説明します。

矯正治療中のお口の中

矯正治療中、患者さまのお口の中は、常に変化します。それに加え、矯正装置が装着されている状態です。お口の中は、次のような4つの状態・環境にあります。

  1. ワイヤーやマウスピースなどの矯正装置の装着
  2. 歯並びの悪さが原因となる清掃困難
  3. 歯並びの悪さが引き起こす自浄性の低下
  4. 特に成人では一度治療をしている歯が多い

一つひとつ詳しく説明します。

1.ワイヤーやマウスピースなどの矯正装置の装着

ワイヤー矯正は、特に複雑な形態をしています。それに加え、ワイヤーを固定するボタン(ブラケット)やバンド、また固定源となるネジ(インプラントアンカー)など本来の口の中にはないものが存在します。マウスピース矯正も同じように、歯を動かすためのマウスピースやマウスピースを固定するプラスチックの突起(レジンボタン)が装着されています。このような口腔内に装着されたものは、汚れがくっつきやすい状態にあります。またワイヤーと接する部分やバンドが装着されている奥歯、ブラケットの周りは汚れが非常につきやすい形をしています。

患者さまのお口の中は、これらが原因となり、汚れがくっつきやすく落ちにくいという不潔な環境になりやすい状態です。

2.歯並びの悪さが原因となる清掃困難

矯正治療を行う患者さまは。歯がガタガタに生えていたり、重なって生えていたり、変な場所から生えていたりと症状は様々です。そんな皆さんの悩みの一つが「歯磨きがしにくい」ことではないでしょうか。歯と歯の重なりが大きく、ガタガタしている歯並びでは、丁寧に歯磨きを行ったとしても歯ブラシの先端が届いていないことがほとんどです。また、変なところから歯が生えていると普段のブラッシングでは磨けていないことも多いです。それに加え、糸ようじやフロスなどの歯と歯の間を清掃する道具が通しにくく、場合によっては通らないことも多いです。

このように歯並びが悪い患者さまは、口腔内の清掃が困難になりやすい状態にあるといえます。

3.歯並びの悪さが引き起こす自浄性の低下

2.と重複する部分も多いですが、歯並びが悪く、歯の重なりが大きい場合や変なところから生えている歯は、唾液による自浄作用が低下しています。これは歯と歯の接触面積が不自然に大きかったり、唾液が届かなかったりすることが原因です。唾液には歯を強くしたり、虫歯をできにくくする成分が入っていたりと歯を守る成分が含まれています。最大の味方である唾液が届きにくい環境が整っていることも大きな特徴です。

4.特に成人では一度治療をしている歯が多い

皆さんは虫歯の治療をしたことがあるでしょうか。小さな虫歯の治療、銀の詰め物、根っこの治療、被せ物の治療など、おそらく多くの人が何らかの虫歯治療を受けたことがあると思います。矯正治療を検討している方の多くの方が一度何らかの虫歯治療を行い、歯ぐきの治療をしたことがある人もいるのではないでしょうか。一度治療を行った歯は、段差があったり目には見えない部分の小さな窪みがあったりすることで、汚れが物理的につきやすい状態です。それに加え、矯正装置を付けるとさらに衛生環境が悪化することは容易に予想がつくと思います。

このように、矯正治療を行う患者さまのお口の中は、衛生環境が悪くなりやすい条件が整っています。

矯正治療中の虫歯にご用心

矯正治療中は、お口の中が通常の状態とは異なっています。これにより、口腔内の衛生状態は悪化し、また自浄性が低下、清掃が困難になるなど多くの問題が生じます。これにより引き起こされるのが、虫歯や歯周疾患です。特に虫歯には注意が必要になります。

ご存じの人も多いと思いますが、虫歯は細菌感染が原因で発症します。つまり、歯の周りに付着した汚れ(プラーク)が原因です。このプラークの中で虫歯の原因菌が増殖し、成長する過程で歯を溶かす酸が産生され、虫歯が発症・進行していきます。矯正治療中の患者さまは、先述のように矯正装置の存在や歯並びの悪さの影響で、プラークがくっつきやすく、取りにくいという状態になっています。特に、ブラケットの周囲やバンドの周りは構造が複雑であったり、接着剤があったりとプラークがより多くつきやすいという悪条件が整っています。このことも相まって、「矯正治療は虫歯の温床」と呼ばれています。

矯正治療中は口腔内の特別性や変化から、歯周疾患や特に虫歯には注意が必要です。

最も大切になる口腔衛生指導

矯正治療は、プラークの温床になる可能性があります。プラークによって引き起こされるお口の病気は、虫歯の他に歯周疾患(歯ぐきの炎症)があります。みなさんもご存じの歯科の2大疾患はプラーク、細菌が原因です。矯正治療はそのプラークの温床になるので、虫歯や歯周疾患が発症・進行するリスクが高くなります。

プラークが付着したままの状態が長時間継続すると当然、悪化の一途をたどります。だからこそ、矯正治療中も口腔内を清潔に保つことが最も重要です。プラークが付着していても、それをしっかり取り除くことができれば、虫歯や歯周疾患の発症や進行を食い止めることができます。

では具体的にどのようにすれば良いのでしょうか。口腔内の清掃指導は、矯正治療を行う前から受けることができます。この矯正治療前から清掃指導を徹底することは最も重要かつ最初の第一歩となります。歯並びが悪い段階から、自分の歯のどの部位にプラークが最もつきやすいのかを把握し、どのようにブラッシングをすることでそれらを改善できるのかということを理解しておくことができます。これは矯正治療中も役に立つことに間違いありません。また、フロス・糸ようじをより効果的に使うことも重要です。矯正治療中は、ワイヤーがあったり、歯と歯の接触している部分が不規則になったり普段の状態よりもフロス・糸ようじを通しにくい状態です。虫歯・歯周疾患は多くの場合、歯と歯の間から発症・進行することが多いため、この部分のプラークの制御がとても大切です。

矯正治療中は、これらの歯の清掃困難だけでなく、矯正装置の周りにも注意が必要です。矯正装置は構造が複雑なため、歯ブラシでは磨くことが困難です。ここでマストアイテムとなるのがタフトブラシ(1本ブラシ)です。毛先が細いため、複雑で細かい構造の中にも入り込みプラークを落とすことができます。ブラケットやボタン、バンドが装着されている歯は、このタフトブラシで磨くことをお勧めします。

このように矯正治療中は、治療前から口腔内を清潔に保っておく必要があります。そのモチベーションが矯正治療中の口腔内を清潔に保つモチベーションにもつながります。これらは全て自身が家で行わなければならないことですが、どのように磨き、どのようにフロスを通せば良いのかは、歯科医院での指導が必須です。

歯科受診の重要性

矯正治療中も歯科医院の受診が必要です。受診する理由は3つ挙げられます。

①口腔衛生指導の徹底
②虫歯や歯周疾患の早期発見・治療
③矯正装置の調整・管理

これらは全て重要なことです。

これまでも述べたように、口腔内の衛生指導を徹底することで、虫歯・歯周疾患の発症予防につながるだけでなく、患者さま本人のホームケアに有益な指導を受け、ご自身で自分の歯を守る手段を身につけることで、矯正治療後も自分の歯で生涯食べられる、話せるといった機能の維持にもつながります。矯正治療後のことも考えると最も重要な役割を果たしているといえます。

また、虫歯や歯周疾患を発症してもダメージが少ない段階で治療を行うことで、歯の寿命を長くすることができます。矯正装置の周りの虫歯は自身では発見しにくいため、歯科医院での専門的な目で、時にはレントゲン撮影をしながら、早期発見することができます。

矯正装置も歯並びが変化するとワイヤーの調整が必要になります。また、ブラケットが外れていたり、ワイヤーが切れてしまったりしていては歯を適切な位置に動かすことができず、今までの治療が水の泡になってしまいます。歯科受診をしっかりと行うことで、故障や脱離の早期発見につながり、迅速に対応することができます。

矯正治療中も、普段と同様歯科医院の受診はとても重要です。歯科医師と相談し、適切なタイミングで歯科受診を行うようにしましょう。

最後に

矯正治療中は、多くのリスクを抱えています。特に虫歯は発症しやすく、かつ進行しやすい状況です。虫歯は予防することが可能な疾患です。矯正治療中のリスクを十分に把握して自身でしっかり清掃し、発症を予防しましょう。また、歯科医院を定期的に受診し、自身の歯並びに合わせた清掃方法を学ぶことでより効果的に発症予防が可能になります。

何か気になることや矯正治療に興味がある方は、お気軽にご相談ください。