2024.08.18
2024.07.12

歯周病でも歯列矯正はできる?

 

 

歯列矯正は、動かしたい方向に力を加えて歯を動かす治療のことをいいます。一方で、歯周病は、歯ぐきに炎症が起きている状態のことをいいます。そのため、歯周病の状態で歯列矯正を行うとさまざまなトラブルを引き起こすことがあります。今回は、歯周病と歯列矯正についてそれぞれ説明した後に、歯周病と歯列矯正の関係について説明します。

歯周病の症状と治療方法

厚生労働省「令和4年(2022年)歯科疾患実態調査結果の概要」 によると、歯周病がやや進行した歯がある人の割合は、全体で約50%を占めています。また、年齢別に見ると年齢が高くなるにつれその割合が増加しています。このように歯周病は、非常に身近な疾患であることがわかります。

歯周病の症状

歯と歯ぐきは、きっちりとひっついているように見えます。しかし、実際には、歯と歯ぐきの間には隙間がありこの隙間のことを歯周ポケットといいます。磨き残しが多いとプラークがこの歯周ポケットに溜まり炎症が起きます。炎症が歯を支えている歯槽骨(しそうこつ)に広がり、骨が溶けている状態のことを歯周病といいます。歯周病になると歯ぐきが赤く腫れます。また、ブラッシングを行った時に歯ぐきからの出血も認められます。重度の歯周病になると、歯槽骨が溶けてしまい、歯がグラグラします。

歯周病の治療の流れ

では、歯周病はどのような流れで治療を行うのでしょうか。以下に一般的な歯周病の治療とその流れについて説明します。

① 歯周ポケット検査

歯と歯ぐきの間に存在する歯周ポケットの深さを測定することにより歯周病の診断を行います。健康な歯周ポケットの深さは、1〜3mmです。歯ぐきに軽度な炎症があると4〜5mm、中程度から重度の歯周病になると5mm以上と段々深くなります。

② スケーリング

歯に付着したプラークが石灰化した状態のものを歯石といいます。歯石を除去するために、超音波振動を歯石に当て、歯石を取ります。この処置のことをスケーリングと呼びます。スケーリングを行ったあとは、しばらく時間を空け、再度歯周ポケットの測定を行い、ポケットの深さが改善しているかを確認します。

③ SRP

歯周ポケットの深さが改善していない場合、SRPを行います。SRPは、スケーリングと異なり歯ぐきより下の部分に対して行われる歯石取りのことをいいます。SRPは、スケーラーと呼ばれる専用の器具を用いて歯石を取ります。歯石を取る際に痛みが出る可能性があるため、局所麻酔を行った後に歯石取りを行います。SRP終了後、再度歯周ポケット検査を行い、歯周ポケットの深さが改善しているかの確認を行います。

④ 歯周外科治療

SRPを行っても歯周ポケットが改善しない場合は、歯周外科治療を行います。歯周外科治療には、フラップ手術、歯周組織再生療法の2つがあります。以下では、これらの治療について説明します。

フラップ手術

フラップ手術は、スケーリングやSRPで取ることのできない部位に付着した歯石や感染組織を取り除く手術のことをいいます。フラップ手術では、まず、局所麻酔を行った後に歯ぐきを切開し、歯の根っこを露出させます。その後、歯に付着した歯石や感染組織を取り除きます。フラップ手術を行うことで、歯周ポケットの深さは大幅に改善することができます。しかし、施術後に歯ぐきが下がってしまい見た目が悪くなる可能性があります。

歯周組織再生療法

フラップ手術では、歯周ポケットを改善することができます。しかし、歯周病の炎症により溶けてしまった歯槽骨を再生することはできません。この失った歯槽骨を再生する方法が歯周組織再生療法です。以下では、代表的な歯周組織再生療法であるGTR法について説明します。

GTR法

フラップ手術など一般的な歯周外科治療をしても基本的に歯槽骨は再生しません。これは、骨よりも歯ぐきの再生スピードが速く、骨が再生するスペースに歯ぐきが入り込むためです。GTR法では、メンブレンと呼ばれる特殊な膜で骨が再生するスペースに歯ぐきが入り込むのを防ぐことにより、歯槽骨の再生を誘導します。

⑤ 定期的なメンテナンス・ブラッシング指導

歯周ポケットの深さが改善した後は、この状態を維持できるように定期的に歯石取りなどのお口のメンテナンスを行います。また併せて、磨き残しを減らすためにブラッシング指導を行います。ブラッシング指導では、まずどのような方法で磨いているのかを歯科衛生士が観察し、その後に正しいブラッシング方法を指導します。

歯列矯正の種類と特徴

次に歯列矯正の種類と特徴について説明します。

インビザライン治療

インビザライン治療は、透明なマウスピースを決められた期間装着することで歯を動かす矯正方法です。

インビザライン治療のメリットとしては、矯正装置が目立ちにくい、自由に取り外しができる、痛みが少ないといったことが挙げられます。一方、デメリットとしては、1日に20時間以上の装着が必要、矯正効果が装着時間に依存する、適応症例が限定されるといったことが挙げられます。

ワイヤー矯正

ワイヤー矯正は、ブラケットと呼ばれるワイヤーをかける溝が付いた装置とそこにワイヤーを装着することで歯を動かす治療のことをいいます。ブラケットやワイヤーを歯の表に装着する場合を表側矯正、歯の裏に装着する方法を裏側矯正といいます。

ワイヤー矯正のメリットとしては、治療実績が豊富、適応症例が多いといったことが挙げられます。一方、デメリットとしては、歯の清掃が難しい、取り外しができない、口内炎になりやすいといったことが挙げられます。また、表側矯正では見栄えが悪いというデメリットがありますが、裏側矯正では、矯正装置が見えないため見栄えに影響しにくいという特徴があります。

歯周病がある状態で歯列矯正を受けるリスクとは?

歯列矯正を行う前に歯周病がある場合、まずは歯周病の治療を行います。これは、歯周病がある状態で歯列矯正を行うと後述するようにさまざまなリスクがあるためです。以下にリスクについてまとめてみました。

歯肉退縮が起こる

歯周病は、歯ぐきに炎症が起きているため、歯ぐきを構成する組織にダメージがあります。歯列矯正は、歯と歯ぐきに大きな力がかかるため、歯ぐきへのダメージが更に蓄積します。歯ぐきへのダメージが大きくなると、歯ぐきが下がる歯肉退縮(しにくたいしゅく)が起こります。歯肉退縮が起きると歯が伸びているように見え、見栄えが悪くなります。

歯周病の悪化

歯列矯正中では、歯ぐきに大きな力が加わります。そのため、歯ぐきに負荷がかかり、歯周病が悪化します。また、歯列矯正では、ブラケットと呼ばれる矯正装置とワイヤーを歯に装着します。これらの装置により、磨き残しが増え、結果的に歯周病の悪化に繋がります。

歯が抜ける可能性がある

歯周病では、歯を支える歯槽骨(しそうこつ)が溶け、歯がグラグラしていることがあります。この状態で歯列矯正を行うと矯正装置から加わる力に歯が耐えられなくなり、歯が抜けることがあります。

歯列矯正中に歯周病を防止するためには?

歯列矯正中は、お口の中の清掃が難しいため歯周病になるリスクが増加します。以下では、歯列矯正中に歯周病を予防するための方法を説明します。

口腔ケアグッズを使用する

ワイヤー矯正では、歯の表面に矯正装置を装着します。

そのため、歯ブラシでは取ることのできない汚れが矯正装置と歯の間に付着しやすくなります。これらの汚れを取るためには、タフトブラシや歯間ブラシの併用がお勧めです。
タフトブラシは、ブラシが1つにまとまった形状のブラシで、歯ブラシでは取ることのできない部位の汚れを取ることができます。歯と歯の間を磨く場合は、歯間ブラシの使用がお勧めです。歯間ブラシで歯と歯の間を磨く際は、歯ぐきを傷つけないようにゆっくりと歯間ブラシを挿入しましょう。

これらの口腔ケアグッズを使用することで、磨き残しを減らし、歯列矯正中に歯周病になるリスクが低下します。

磨き方を工夫する

歯周ポケット内の汚れを取るための有効な磨き方としては、バス法があります。バス法は、歯に対して45度の角度で歯ブラシを傾けることで歯と歯ぐきの間にブラシが入るようにして磨く清掃方法です。このように磨き方を工夫することも歯周病の予防には有効です。

定期的なメンテナンスを受ける

プラークが歯に付着しやすくなる原因として、歯石があります。歯石は歯に付着するとブラッシングで取り除くことは基本的にはできません。そのため、歯列矯正中も定期的に歯科医院に通院し、歯石取りを受けましょう。

まとめ

今回は、歯周病と歯列矯正について説明しました。

歯周病は、歯ぐきに起こる炎症反応のことで、歯ぐきの赤み、腫れ、出血などを引き起こします。歯周病の治療方法としては、スケーリングやSRPといった歯石取りや歯周外科治療が挙げられます。歯周外科治療には、フラップ手術と歯周組織再生療法があります。フラップ手術は、スケーリングやSRPで取ることのできない部位に付着した歯石や感染組織を除去する手術です。歯周組織再生療法は、フラップ手術では再生できない歯槽骨を再生する治療方法です。主な歯周組織再生療法として、GTR法があります。GTR法はメンブレンと呼ばれる特殊な膜を用いて歯槽骨を再生する治療方法です。

歯列矯正は、歯に力を加えることで歯を動かす方法です。代表的な歯列矯正としては、インビザライン治療、ワイヤー矯正があります。インビザライン治療は、矯正装置を自由に取り外しができるという特徴がある一方で、装着時間の遵守などの自己管理が必要です。ワイヤー矯正は、自己管理が不要であるという特徴がある一方で、口内炎などのトラブルを引き起こすことがあります。

歯周病がある状態で歯列矯正を行うと、歯肉退縮、歯周病の悪化、歯の脱落などさまざまなトラブルを引き起こすことがあります。また、歯列矯正中は、矯正装置を歯に装着するため磨き残しが増え歯周病になるリスクが増加します。そのため、歯列矯正中は、丁寧なブラッシングや口腔ケアグッズの併用などを行い、歯周病を予防することがとても重要です。