2024.06.18
2024.08.22

マウスピース矯正の虫歯事情

 

 

矯正治療中には様々なリスクがあります。
近年注目のマウスピース矯正は取り外しができ、掃除が簡単と思われています。しかし、マウスピース矯正をしている間も例外なく、多くのリスクが存在します。注意深く管理しないと取り返しのつかない状態になることも予想されます。マウスピース矯正だからといって油断することなく、口腔内の衛生状態を清潔にしておく必要があります。

そこで今回は、マウスピース矯正中のお口の中の状態やどのようなリスクを抱えているのか、また最悪の状態にならないためには、どのようなことができるのかということを説明します。
皆さんも自身の歯を1本でも多く守れるように今日からできることをやっていきましょう。

矯正治療中の注意すべき歯科疾患

矯正治療中は多くのリスクを抱えています。その中で特に注意が必要な歯科疾患が「虫歯」と「歯周疾患(歯肉炎や歯周炎)」です。これらは、歯科の2大疾患と呼ばれるほど、罹患者数の多い疾患です。

厚生労働省の報告では、虫歯は20歳以上の日本人の90%が罹患経験を有している(※1)とされています。また、約3割は未治療の虫歯を持っており、40歳以上の成人は約40%の方が、虫歯が原因で抜歯したことがあると報告されています。歯周疾患は世界の全人口の8割ほどが大なり小なり罹患しているとされ、世界で最も罹患率の高い疾患です。
これは日本においても例外ではありません。日本人も多くの方が重症・軽度な歯周疾患に罹患しているとされています。

これら歯科の2大疾患は、歯を失う原因の1位と2位です。
ご存じのように、永久歯は、一度抜いてしまうともう二度と生えてくることはありません。そのため、虫歯や歯周疾患にかからないようにすることが、自分の歯を守る最も有効な手段です。
この2つの疾患は、全てプラーク(歯に付着した汚れ、細菌の塊)が原因です。矯正治療中は、歯に複雑な構造をした小さい矯正装置やマウスピースをほぼ常に装着しています。これらの矯正装置はこのプラークが非常につきやすい構造をしており、なおかつ落としにくい状態になっています。これを長時間放置すると当然虫歯や歯周疾患になってしまいます。つまり矯正治療中の人は、これまで以上にプラークコントロールが重要になります。特に、虫歯は進行することで痛みを伴ったり、失ってしまうと矯正治療の計画が頓挫したりと悪影響があるので注意すべき疾患です。

※1:大人のむし歯の特徴と有病状況(e-ヘルスネット厚生労働省)

マウスピース矯正中の口腔内の状態と変化

マウスピース矯正中は、口腔内にプラークが付着しやすい環境やさまざまな変化が生じています。
これらをしっかりと認識し、どのようなことに気をつけるべきなのかについて、説明します。

まず、矯正治療中の患者さまは不正咬合を例外なく持っています。中でも多いのが叢生ではないでしょうか。叢生とは歯並びがガタガタで重なりが生じている状態です。歯と歯の重なりが大きいということは、そこに汚れが溜まりやすく、かつ落ちにくい状態です。特に歯ブラシだけでは重なった部分に溜まるプラークを落とすことはまず不可能です。そこで役に立つのが、歯間ブラシやフロスなどの補助道具ですが、これも、歯と歯の間は通しにくい構造になっています。

また八重歯など、他の歯列から逸脱してしまった歯は、普段の何気ないブラッシングでは磨き残しが生じていることが多いです。このような歯は、注意深く1本1本磨く必要がありますが、これも面倒なため多くの場合、汚れが蓄積します。唾液には多くの抗菌性物質(細菌を殺したり、増殖を抑制したりする物質)が含まれますが、歯列から逸脱してしまった歯であったり、叢生によって重なりが大きかったりする歯は、唾液が届きにくく、自浄作用が下がってしまう可能性が高いです。

マウスピース矯正では、基本的に食事時以外のほぼ全ての時間、マウスピースを装着していなければ治療効果が得られません。効果が期待できる装着時間は、20時間以上といわれているため、当然寝ている間もマウスピースを常に装着する必要があります。
唾液には多くの虫歯原因菌を抑制する物質が含まれますが、寝ている間は唾液の分泌量が減少する上に、歯にはマウスピースというカバーが装着されているため、唾液が歯に到達しにくい状態のため、磨き残しがあると虫歯リスクは高まります。
そして、マウスピース矯正でも歯を動かすためにアタッチメント(プラスチックの突起)を歯の表面につけることがあります。この突起に汚れが溜まりやすかったり、材料が多孔性(顕微鏡レベルで穴がたくさん空いている状態)であったりするため、細菌が増殖しやすい状態です。

このようにマウスピース矯正の口腔内にはいろいろなリスクを抱えているのに加えて、マウスピースによる弊害も多くあるので注意が必要です。

マウスピース矯正の注意点

矯正治療中は、通常の状態よりも虫歯や歯周疾患のリスクがあり、マウスピース矯正ならではの口腔内の変化があります。では、どのようなことに注意すべきか説明します。

まずは、歯と歯の間です。
先述のとおり、矯正治療中では絶えず歯と歯の接触も変化します。それにより、歯磨きのポイントも日々変化します。

次に、プラスチックの突起の存在です。
特に、前歯に多くつけられることが多いこの突起は、治療を行う上で必要なものですが、ケアが難しくなります。

最後に、マウスピースの存在です。
マウスピースによって、唾液の自浄作用の低下やプラークの停滞の可能性があります。常に装着する必要があるため、普段よりも不潔になりやすいことを知っておくと良いでしょう。

マウスピース矯正は、お口の変化が比較的短期で起こります。そのため、メインテナンスの注意点が日々変わっていくことに注意が必要です。注意点を把握すれば、あとは対策するだけです。自分のお口の中にどのような変化が生じ、どのようなことに注意すべきかということを常に意識しておきましょう。

虫歯にならないためにできること

それでは、お口の中の変化や注意点などを理解した上で、どのような対策をすれば良いのでしょうか。
詳しく解説します。

①日々の口腔ケアに注力する

矯正治療をしている人もしていない人も日々の口腔ケアは、虫歯予防に最も重要なことの1つです。歯に付着したプラークを除去できれば、虫歯や歯周疾患を予防することは可能です。中でも矯正治療中の人は、先ほど述べた口腔内の変化や注意点に特に注意が必要です。毎日歯ブラシだけで終わっていませんか?それだけでは、歯と歯の接触部分の汚れは落ちません。これに有効なのが、フロスや歯間ブラシなどの補助道具です。最低でも1日1回補助道具を使い丁寧に口腔ケアを行うことが、虫歯にならないためにできる最も簡単で、効果的なことです。

特にマウスピース矯正では、唾液の恩恵を受けることができなくなります。食事の後は必ずマウスピースを外して口腔清掃を行い、マウスピースは丁寧に洗浄した後に再度装着するようにしましょう。また、必ず寝る前には補助道具で細かい部分の清掃を行うようにしましょう。

②定期的な歯科受診

定期的に歯科医院を受診することも大切です。
通常の定期的なメインテナンス頻度は、3ヶ月に1回が多いですが、矯正治療中は通常よりも多くのリスクを抱えているため、月1回の定期受診をお勧めします。これにより、自分では手の届かない部分の清掃ができるだけでなく、歯科衛生士や歯科医師の指導を受けることでより効果的なセルフケアの方法をその時の口腔内の状態、変化に合わせて学ぶことができ、効果的に自分での清掃を行うことができるようになります。

それらに加え、虫歯の早期発見や早期治療にも一躍かっています。早期発見・早期治療を行うことで長期的に自分の歯を守ることができます。
またアタッチメントの脱離が生じた際はできるだけ早くつけ直す必要があります。なぜなら、歯を動かすのに十分な力が加わらなくなるだけでなく、アタッチメントをつける際に歯の表面を少し溶かして、ギザギザを作ることで、機械的にかみ合わせているため、アタッチメントの付着部分は他の部分よりも歯が弱くなっているからです。
虫歯リスクが高い状態にあるため、歯科医院への受診が重要であることがわかります。

③マウスピースの洗浄

食後や起床後のマウスピースは、見た目には綺麗でも顕微鏡レベルでは非常に多くの細菌が付着していて、これをそのまま装着することは、汚れを歯に装着しているようなものです。ブラシや流水で洗うようにしましょう。常に取り外しのできるマウスピース矯正だからできる洗浄方法です。具体的な管理方法については歯科医院でお尋ねください。

このように、マウスピース矯正では、日々のセルフケアが虫歯にならないためにどれだけ重要であるかを理解できたでしょうか。もちろん歯科医院での精密な治療や熱心な指導は行われますが、それ以上に自分が家で行うべきことが多くあります。
皆さんの健康資産である歯をしっかり守るために最大限サポートしますので、不安な方はお気軽にご相談ください。

まとめ

マウスピース矯正は大変有効な治療の一つです。それでも多くのリスクがあります。それらをしっかりと理解して、しっかりと予防し、最大の治療効果が得られるようにしましょう。
私たち歯科医院スタッフはみなさんの健康の味方です。気になることやマウスピース矯正に興味がありましたら、お気軽にご相談ください。ご来院をお待ちしております。